「パパが家事のシステム担当」元協力隊が大船渡で見つけた子育ての形
2022年に岩手県大船渡市へ移住し、地域おこし協力隊として3年間活動してきた木崎さん。現在は協力隊を卒業し、自身のコーヒー焙煎所を営みながら、2024年に生まれたお子さんの育児に奮闘する「現役パパ」でもあります。
地方だからこそ、暮らしはもっと工夫できると考える木崎さんに、移住後の子育てを通して見えてきた、大船渡での暮らしのリアルを伺いました。

木﨑和也(きざき・かずや)
コーヒー焙煎士 / 元・大船渡市地域おこし協力隊
2022年に岩手県大船渡市へ移住。3年間の地域おこし協力隊としての任期中に、コーヒー焙煎士としての活動や地域資源を活かした事業立案に注力する。任期満了後は独立し、自身の焙煎所を営む傍ら、9月から2月にかけては早朝3時から叔父の漁師業を手伝うなど、地域の産業にも深く関わっている。
「大船渡なら家族で暮らしていける」協力隊卒業後も、この街に残った理由

子どもとの様子
――大船渡に移住して約3年半。協力隊の任期を終えた後も、この街を拠点に子育てをしていこうと決めた一番の理由は何だったのでしょうか?
最大の理由は、3年間を通じてこの街で自分の力で商売をして、家族を養っていける手応えを掴めたことです。移住当初から「3年後には起業して自立する」という目標を掲げていたので、その土台が整ったことが大きかったですね。
生活のストレスのなさも、決め手の一つでした。僕は車の渋滞が苦手なのですが、大船渡にはそれがありません。街全体がコンパクトで、市役所、スーパー、病院、公園など生活に必要な場所へは車で10分から15分ほどで行けます。
子どもがいると、移動にかかる時間そのものが負担になります。その点、大船渡は生活のほとんどが短い移動で完結するので「移動コストの低さ」は、子育て世代にとって大きなメリットです。
――子どもが生まれてから、その環境の良さを実感する場面も増えましたか?
増えましたね。たとえば、子どもを連れて出かけると、移動が少ないだけでかなり気持ちが楽なんです。ぐずってしまってもすぐ帰れますし、用事も短時間で済ませられるので。三陸道を使えば、隣の陸前高田や釜石にもすぐアクセスできますしね。
あと、子どもが生まれてからはショッピングセンター「サンリア」や「イオン」の存在が心強いです。都会だとあちこち回らないと揃わないものが、一箇所で完結します。この街のサイズ感が、僕たち家族には合っていると感じています。
子どもを連れて歩くだけで話しかけられる。親になって見えた、大船渡のあたたかさ
――父親になってみて、地域との関わり方に変化はありましたか?
かなり変わりましたね。たとえば、0歳の子どもを連れてスーパーへ行くだけで、「可愛いね」「今何か月?」と、知らない方から自然に声をかけてもらうことが増えました。
最初は驚きましたが、子どもが少ない地域だからこそ、みんなで見守ってくれているような感覚があります。自分たちの子どもというより、地域の中で育ててもらっているような安心感がありますね。
――実際に子育てをする中で、地域の制度や環境面で助かっていることはありますか?
親になってからは、情報の取り方も変わりました。それまではあまり意識していなかった広報誌も、予防接種やイベント情報をチェックするようになりましたし、「自分から取りにいく」という意識はかなり強くなりました。
保育園についても、都会のような待機児童の心配はほとんどなく、「ぜひ来てください」という雰囲気だったのがありがたかったです。見学や体験の制度も充実していて、わからないことは先生方が丁寧に教えてくれました。
施設面では、サンリアの中にある大船渡市こども家庭センター「DACCO」をよく利用しています。
子どもがいなかった頃には意識していなかったのですが、雨の日でも遊ばせられる場所があるのは本当に助かりますね。
――逆に、地方で子育てで不安を感じることはありますか?
医療に関しては、少し心細さを感じることもあります。現状、大船渡で出産できる場所が県立大船渡病院に限られているので、何かあったときの選択肢がもう少しあれば安心だなと。助産院のような多様な選択肢や、小児科の体制がさらに充実すると、より安心して子育てができる環境になると感じます。
早朝から漁業、朝には家事に専念できる。木崎さんが育児を“仕組み化”した理由

コーヒーを提供する活動もしている
――木崎さんは、朝3時に起きて漁業のお手伝いもされていると伺いました。かなりハードな生活のように思えますが、育児との両立はどうされているんですか?
9月から2月の出荷シーズンは、朝3時から7時まで船の作業を手伝っています。最初は大変でしたが、この生活を続けるうちに、朝の時間の使い方が大きく変わりました。しかし、妻には仕事のし過ぎと言われていますし、家事の負担をかけています。両立はできているのかわからないところがあり、毎日ギリギリで生活しています。
――かなりストイックな生活に見えますが、ご自身の中では無理はないのでしょうか?
無理はありますが、なんとかそれを乗り越えようと「仕組み化」を意識しています。0歳から1歳の頃は手探りで、もっと良い関わり方があるはずだと感じていました。
そこで取り入れたのが、家事のシステム化です。食洗機、乾燥機付き洗濯機、ロボット掃除機のいわゆる“三種の神器”は迷わず導入しました。洗濯物を干す、食器を洗うといった“作業”を家電に任せることで、その分の時間を子どもと過ごす時間に回しています。
――「時間をつくる」という考え方ですね。
そうです。地方だからといって、手間をかけることが前提である必要はないと思っています。便利なものは積極的に使って、暮らし全体を回しやすくする方が結果的に生活が回るようになります。
あとは、夜は無理をせず、子どもと一緒に早めに寝てしまいます。生活リズムを整えることで、心にも時間にも余白ができるようになりました。
「仕事と家庭は分けすぎなくていい」民泊併設の家に込めた思い

大船渡の景色
――今後の活動や、どのような家庭を築いていきたいか、展望を教えてください。
現在、自宅をリノベーションしていて、妻の整体店と、僕のコーヒー焙煎所、さらに民泊を併設した場所にしようと計画しています。仕事と生活の場所をあえて分けず、「職住一体」の形にしたいです。
家で仕事をしながら家族の気配を感じて、予約が入れば対応する。完全に切り分けるのではなく、仕事と家庭が自然に混ざり合うような空間が、自分たちには合っていると思っています。
――民泊も併設されるとのことですが、どのような意図があるのでしょうか?
一番は、子どもにいろんな大人と出会ってほしいという思いです。この地域は、都会のように多様な人が自然に集まる環境ではないので、自分たちで“外との接点”をつくる必要があると感じていて。
民泊を通じて、いろんな仕事をしている人や、違う価値観を持っている人が家に来る中で、子どもが自然と会話をしたり、存在に触れたりする環境をつくりたいと思っています。ただ話を聞くだけでなく、「こういう生き方もあるんだ」と体感できる場にしたいですね。
――家庭の中に、いろんな価値観が入ってくるイメージですね。
そうですね。地方だからこそ「ないもの」を嘆くのではなく、自分たちでつくっていくことが大事だと思っています。
大船渡にはまだ“ないもの”が多いですが、それは不便ではなく、チャンスでもあります。「誰かがやってくれる」のを待つのではなく、自分たちで面白がってつくっていく感覚があると、暮らしは大きく変わると思います。
――最後に、これから地方移住や子育てを考えている方へメッセージをお願いします。
大船渡は食も自然も魅力的で、子育ての環境としても可能性のある場所だと思います。その上で、「楽しさは自分で作るもの」という感覚はすごく大切だと感じています。遊びも、仕事も、暮らし方も、自分たちの手で面白くしていく視点があれば、どこに住んでも充実した時間を過ごせるはずです。
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木﨑さんはご自身で仕事が好きだと話していました。仕事のことを考える姿勢があるからこそ、育児にも自然と向き合っているのだと感じます。
今回のインタビューで印象的だったのは、「家事のシステム化」や「早朝の漁業」といった生活の工夫です。そうした積み重ねによって、暮らしそのものを自分たちに合う形に整えているように見えました。
地方暮らしを単なる「スローライフ」として捉えるのではなく、現代のツールと地域の資源を掛け合わせて、自分たちの最適解を作り出していく。そんな木崎さんの姿勢が強く印象に残っています。