本は子どもを幸せにする手立て――大船渡の子どもたちに“心の栄養”を届け続ける彼女の歩み

岩手県大船渡市で、長年子どもたちに絵本の読み聞かせや配本活動を続けている認定NPO法人おはんしころりん。その活動を支えるメンバーの一人、廣野さんは、事務局業務や読み聞かせボランティアを務める傍ら、手芸を通じた震災支援や地域活動など、多彩な顔を持ちます。

「本は子どもを幸せにする手立て」と読み聞かせへの熱い思いを語る廣野さん。大船渡という街を愛し、次世代の心に栄養を届け続ける、温かくも信念に満ちた歩みを伺いました。

廣野稲子(ひろの・いねこ)
認定NPO法人おはなしころりんのメンバー。事務局業務や読み聞かせに加え、生協けせん支部で活動をしたり、個人の事業としておばちゃん手芸部「願いのハ~モニ~」を主宰したりするなど、大船渡を拠点に多方面で地域支援の輪を広げている。

おはなしころりんで継承した熱意

おひさまひろばでの絵本貸し出し活動の様子

――廣野さんが現在おはなしころりんで担っている役割や、具体的な活動内容について教えてください。

ボランティアとして、市内の小学校での朝学習の読み聞かせを長年担当しています。

またスタッフとしても、主に学級に張り出す「ころりん新聞」の作成や活動報告書の編集に携わっています。以前は、各校へ届ける移動こども図書館が巡回するためのスケジュール管理や、選書などの実務も担当していました。

――おはなしころりんに参加されたきっかけと、団体に対して抱いた第一印象をお聞かせください。

震災よりも前の時期です。今も一緒に活動しているメンバーの古座さんに、「小学校での読み聞かせをやってみない?」と誘われたのがきっかけでした。もともと本が好きでしたし、自分の教養や成長のためにもなりそうだという期待を持って入会しました。

いざ活動に入って圧倒されたのは、メンバーの皆さんの凄まじい熱量です。ただ本を読むのではなく、子どもたちの心に届く、本当に良い本を届けたい情熱がありました。その真剣な眼差しを目の当たりにして私も刺激を受け、活動に臨みました。

――活動をする上で、おはなしころりんの江刺理事長との忘れられないエピソードはありますか?

印象に残っているのは、江刺理事長が活動報告書をわざわざ全メンバーの自宅へ一軒一軒、直接手渡しで届けてくださっていたことです。郵便を使えば済むことかもしれません。でも理事長は、直接顔を合わせて言葉を交わすことを何よりも大切にされていました。

また、月に2回開催されている定例会も大事にされています。おはなしころりんの正会員さんとの交流や勉強会をかかしません。

「本でつながろう、本で心を育てよう、みんな一緒に」という団体の理念を、誰よりも理事長自身がその背中で体現している。その情熱とエネルギーを間近に感じてきたからこそ、私たちも直接届ける文化を今も大切に守り続けているのだと思います。

子どもたちに心の栄養を届けたい

親子料理教室の様子

――読み聞かせや地域の方との交流を通じて、特にやりがいや喜びを感じる瞬間はいつですか?

何といっても、子どもたちの真っ直ぐな反応を肌で感じた時です。小学校1年生のクラスでしたが、終わった途端に何人もの子どもたちが駆け寄ってきて、私にハグをしてくれたことがありました。あのはにかんだ笑顔と温もりは、今も私の宝物です。

また、子育て支援の場では、まだ1歳にも満たない赤ちゃんが、私の持つ本をじーっと食い入るように見つめてくれる。赤ちゃんは言葉を理解していると思って、本を読んでいます。物語が持つ力が子どもたちの心に届いていると実感できる瞬間は、何物にも代えがたい喜びです。

――移動こども図書館において、幅広いジャンルを届けるおはなしころりんらしいこだわりについて教えてください。

移動こども図書館とは、大船渡市内の小学校に絵本や児童書を配達する事業です。段ボール箱で全国から届いた本を小学校の各学級に配本したことがきっかけで始まりました。それを今まで続けています。

昔話や心が温かくなる物語を届けるだけでなく、さらに科学、歴史、宇宙、そして時には子どもたちの興味を引く話題作まで、多様なジャンルを意識的に混ぜています。

高学年の子どもたちへの読書状況アンケート調査では、残念ながら「1ヶ月に1ページも本を読まない」という回答がゼロではありません。だからこそ、どんなに小さなきっかけでもいいから「本って面白いかも」と思ってもらえるよう、誰かの興味に引っかかる一冊を届けることに心血を注いでいます。

――本が子どもたちに果たす役割をどう考えていますか?

大船渡には、都会のようにいつでも行ける博物館や美術館がそれほど多くありません。だからこそ、私たちは本を未知の世界への窓だと考えています。

本を開けば、そこには宇宙が広がり、歴史が動き、見たこともない芸術に触れることができます。本は知識を蓄えるだけでなく、子どもたちの人間の幅を広げ、豊かな感性を育むための心の栄養です。この街で育つ子どもたちが、本を通じて世界を広げ、豊かな心を持って成長していけるよう、そのお手伝いができることに意義を感じています。

大船渡の街への愛着と、本が照らす温かな未来

お楽しみ交流会活動の様子

――廣野さんから見て、大船渡の街やそこに住む人々の魅力、そして震災後の変化をどのように感じていますか?

大船渡の人は、本当に心の広い人が多いと感じます。私が何かやらかしをしてしまっても、温かく笑って許してくれるような、独特の許容範囲の広さがあるんです。この街の人々が持つお互い様精神には、私自身、何度も救われてきました。

震災を経て、街の形は変わりましたが、人々の絆はより強固になったと感じます。仮設住宅での暮らしなど、苦境を共に乗り越えたことで生まれたと思います。仮設住宅では本当にみんなに助けられて、お互い助け合いながら暮らしていきました。この前向きで明るいたくましさを持つ気仙人(けせんじん)の気質こそが、この街の一番の魅力です。

※気仙人:地元で使われる大船渡市、陸前高田市、住田町の地域の人たちを指します。

――子どもに対しての様々なご活動をしていますが、昨今の深刻な子どもの自死問題に対し、本や言葉の力はどのような助けになると信じていますか?

昨今の不幸なニュースに触れるたび、心を痛めています。本には、誰にも言えない孤独を和らげ、疲れた心を落ち着かせる力があると信じています。

本の中に描かれる多様な生き方や、誰かの温かな言葉に触れることで、自分だけじゃないんだと思えたり、ほんの一瞬でも現実の辛さを忘れて物語の世界で休めることができたり。そんな心の安全地帯としての居場所を、本を通じてこれからも提供し続けていきたい。それが私たちの大切な役割だと思っています。

――これからの大船渡がどのような街であってほしいか、活動を通じた今後の展望をお聞かせください。

少子高齢化が進み、人口が減っていく中でも、一人ひとりが孤立せず、コミュニティのネットワークで助け合えるあったかい街であってほしいと願っています。

イギリスのアイリーン・コルウェルさんの「子ども時代は、どの子も幸せでなくてはならなりません。本は、子どもを幸せにする一つの手立てでなのです。」という言葉を、おはなしころりんの活動の土台に置いています。本を読んでいる時の幸せな時間、ページをめくるワクワク感。そんな日常の小さな幸せを、一冊の本を通してこれからも一人ひとりの子どもたちへ丁寧に届けていきたいです。

☆ ☆ ☆

インタビュー中、廣野さんはご自身の失敗談を交えて明るく話してくださいました。その朗らかな笑顔の裏には、震災という大きな困難を地域の人々と共に乗り越えてきた、気仙人ならではのたくましさが流れているのを感じます。

子どもたちのために選び抜かれた一冊一冊の本。その根底にあるのは本によって守られる人を増やしたいという切実な願いです。本は子どもを幸せにする手立て。インタビューの最後に引用されたこの言葉を反芻しながら、私たち大人が地域でできることの大切さを改めて教えていただいた時間でした。

おはなしころりんの歩みは、助成金という支えがあってこそ成り立ってきたといいます。近年、その支援が打ち切られることも増え、運営は岐路に立たされています。しかし廣野さんは、これまでの活動を振り返り、「全国の皆さんの温かい募金、長い間賛助会員になって支えてくれた皆さんのおかげで、多くの子どもたちに本を届けることができた。そのことへの感謝を忘れたくない」と、まっすぐな想いを語ってくださいました。

〈取材・文=ひろゆき(@himon_da)/編集=うぉーかー(@kiima_0617)〉

#おはなしころりん #復興 #読み聞かせ
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