誰にでも機会がある社会を目指して、岩手県気仙地区の高校3年生が挑戦
岩手県・気仙地区で、自らを「オポチュニティ・イネブラー(機会を創出するもの)」と名乗り、地域防災や国際交流、ボランティアなど多岐にわたる活動を展開する金野さん。
大人たちのコミュニティに物怖じせず飛び込み、自ら機会を作り出し続ける彼の原動力とは何なのか。活動にかける情熱と、彼が見据える地域の未来像について話を伺いました。

金野恵人(こんの・けいと)
陸前高田市在住。岩手県立住田高校3年生。2025年、おおふなとボランティアフェスティバルに参加。気仙地区広域学生奉仕団団長。陸前高田市防災マイスターや陸前高田市国際交流協会、大船渡市100人カイギのキュレーターなどの活動を行う。
現役高校生が考える「気仙地区の魅力」=“応援してくれる大人”がいる風土

ウォータースプラッシュへのボランティアの様子
—— 金野さんはご自身の発信の中で「この地域には可能性が山のようにある」とおっしゃっています。地元に対して魅力を感じるようになったのは、なぜでしょうか?
ボランティアや地域イベントの運営、大人の方々との名刺交換といった場面で、地域の皆さんが親身に接してくれるからです。
以前「ふるさとイノベーションプログラム」という全国規模の活動に北東北代表として参加した際、他地域の高校生と話す機会がありました。他の地域では「地元の伝統芸能会の会長と揉めた」「商品開発の担当者と対立した」などの話を聞く機会がありました。
もちろん地域によって、環境や事情は異なりますが、気仙地区には「何かやりたい」と言ったときに、まず「頑張れ!」と応援してくれる大人たちがたくさんいることに気がつきました。震災を経て、企業や団体が学生を応援する風土が根付いている。自分にとっては当たり前だったこの環境こそ、気仙地区ならではの大きな魅力であり、可能性だと思います。
—— “人”と“地域性”そのものが可能性の宝庫なんですね。一方で、人口減少や住田高校の「地元志願者ゼロ」といった現実については、どのように感じていますか?
人口減少自体はどうしようもない面もあると思っています。ただ、地元からの志願者ゼロといった問題は、学校単体ではなく地域や教育全体の課題として捉えるべきだと思っています。学校の魅力が十分に伝わっておらず、中学生がそれを受け取る機会が少ないと考えています。
偏差値を基準にすることや「とりあえず大学へ進学しておけばいい」という考えで進路を決める教育のあり方には、正直疑問を感じています。社会に出た時に本当に役立つのは学歴や偏差値ではなく、「自分が何をして生きていきたいか」ですよね。
僕自身、今の高校を選んだのは活動できる機会がたくさんあって、自分のやりたいことができると思ったからです。今の中学生や高校生には、形式的な枠組みにとらわれず、主体的な選択をしてほしいと思っています。
機会を創出したいと思うきっかけは
—— 金野さんが今取り組んでいるテーマについて教えてください。
今、僕が探究学習などで伝えている大きなテーマは「機会の偏り」についてです。
多くの人が機会に偶然出会うものだと思っています。でも、それだと地域間格差や個人格差が生まれてしまう。学校で社会や地域を知るきっかけがなければ、自分の夢や目標すら見つけられない生徒がたくさん出てくる危機感を感じました。
—— 実際、高校生を対象にアンケート調査も実施されたそうですね。
はい。地元企業や大人との繋がりについて調査したところ、「面白いと思う」「関わりたい」と答えた生徒が約8割いたのに対し、実際に接点を持てているのは約4割でした。つまり、残りの4割は「関わりたくても関わる機会がない」状態なんです。
機会は偶然を待つものではなく、意図的に作れる必然的なものにできるはずだと考えています。きっかけさえあれば人は変わるし、人が変われば地域も変わる。だからこそ、僕は機会を創出したいんです。
人生のターニングポイントは元中学校の校長先生との出会い

防災ワークショップの様子
—— 金野さん自身、一歩を踏み出す大きなきっかけは何だったのでしょうか?
僕にとってのターニングポイントは、師匠と仰ぐ阿部重人先生(元中学校校長)との出会いでした。
避難所運営ゲーム(HUG)の研修に僕が受講者として参加した際、ファシリテーターをされていた阿部先生が僕の熱意を見てくださり、「一緒に活動しませんか」と声をかけてくれたんです。そこから隣の市の防災プログラムに関わるようになりました。
また、陸前高田市議会議員の木村聡さんと子ども食堂で偶然出会ったことから、一般社団法人陸前高田青年会議所の防災研修につながるなど、大人の方々が僕を次の出会いへと導いてくれました。
—— 大人が多いコミュニティに飛び込む際、緊張や不安を乗り越えるために意識していることはありますか?
「情熱」「度胸」「明るさ」の3つだけは誰よりも前面に出すようにしています。
たとえば、ワークショップや講演会で誰からも質問が出ないようなとき、僕は絶対に真っ先に手を挙げます。度胸を見せて自分から取りに行く。言葉遣いやまとめる力がたとえ未熟であっても、情熱と明るさがあれば、気仙の大人たちは温かく受け止め、応援してくれます。この地域だからこそ、僕が生き生きと活動ができているのだと思います。
誰もが「自分なりに生きられる」地域の未来を目指して

—— 自分に何ができるか分からないと悩んでいる全国の高校生へ、アドバイスをお願いします。
悩んだら、ぜひ一度気仙地区に来てみてほしいです。気仙地区は、若者だけでなく、50代・60代の大人の皆さんも熱量を持って挑戦していて、学生を本気で応援してくれる最高の場所です。
また、「自分に何ができるか分からない」人は、一回自分の部屋にこもってじっくり自分を見つめ直す時間を作るといいと思います。
実は僕自身、中学3年生の時にゲーム依存症で入院した経験があります。何もできない退屈な時間の中で、本を読んだり、医師や先生と対話したり、自分自身と徹底的に向き合いました。その経験があったからこそ、今の自己分析力や行動力のベースができたと思っています。まずは家族や身近な人に自分の話を聞いてもらうことから始めてみるといいと思います。
—— 金野さんが最終的に実現したい「地域の未来像」を教えてください。
誰もが「必然的な機会」を得て、自分らしく主体的な目標に向かって挑戦できる地域です。
気仙地区には学生を応援してくれる大人がすでにたくさんいます。ただ、その間をつなぐ人間がまだ足りていない。その仕組みさえできれば、もっと上手く回るはずです。誰もが自分の意志で進んでいける環境を作っていきたいですね。
☆ ☆ ☆
今回のインタビューでは、金野さんが最初から活動的だったわけではない、という意外なお話もお聞きすることができました。自分自身を深く内省する時間や、さまざまな人との出会いを経て、今の金野さんが形作られたのだと感じています。
記事にある通り、気仙地区は新しいチャレンジに対して非常に寛容な土地柄だと思います。そして、地域を守り、盛り上げようと奮闘する大人は数多くいらっしゃいますが、高校生でここまで能動的に活動している人は正直多くありません。
金野さんは今年受験を控えており、来春には大学生になる予定です。新たな環境に身を置くことで、さらに広い視野が得られると思います。金野さんの今後の飛躍とご活躍を、心から楽しみにしています。