“本はもっと自由でいい”『ブックランドさんりく』主催者が語る、地域と本をつなぐ心地よい居場所の作り方

岩手県陸前高田市を拠点に、本を通じた交流の場を作る『ブックランドさんりく』。主催者の松本さんは、かつて「天職」だと思っていた仕事を離れ、挫折を経験しながらも、自分らしい本との関わり方を模索してきました。

「本は高尚なものではなく、もっと自由でいい」。そう語る松本さんに、活動に込めた想いや、地域で居場所を作るためのヒントを伺いました。

松本麻以(まつもと・まい) ブックランドさんりく運営
岩手県陸前高田市在住。元・陸前高田市立図書館司書。「本はもっと自由でいい」をモットーに、読書会や古本市を通じて、地域と本を繋ぐ仕掛け人として活動中。現在は公務員とのパラレルキャリアを歩みながら、誰でも「本好き」と名乗れる、優しく開かれたコミュニティを育んでいる。

天職を辞めても見つけ出した、自分らしい「本の仕事」

陸前高田市のゆるキャラ「たかたのゆめちゃん」

――本に関わるようになった経緯を教えてください。

私は元々、生活の中に常に本があるほど本が大好きで。関東から移住して1年ほど経った頃、陸前高田市立図書館で働き始めたんです。

当時は東日本大震災後の仮設図書館でしたが、大好きな本に囲まれ、市民の方々と本を通じて触れ合えるその仕事は、私にとって天職でした。毎日が本当に楽しくて、ずっとここで働きたいと思っていました。

――天職と感じていた仕事を離れることになったのは、どのような理由からだったのでしょうか。

出産です。子供を育てながら、シフト制である図書館の仕事を続けることが、当時の私にはどうしても難しくなってしまって……。結局、志半ばで退職することになりました。

自分にとっての天職を失った喪失感は想像以上に大きく、心にぽっかりと大きな穴が開いてしまったようでした。うまく両立できなかったという強い挫折感から、しばらくは次のステップへ踏み出せずにいたんです。

――その挫折から、どのようにして個人での活動に繋がっていったのですか?

図書館という場所は、基本的に利用者を待つ施設です。でも私は働いている時から、もっと自分たちから外に出て、本をきっかけにした仕掛けができないかと考えていました。

心に開いた穴を埋めるには、やはり本に関わるしかない。そう確信した時、施設に属して待つのではなく、自分で本を持って外へ出ようと決めたんです。今振り返れば、あの挫折があったからこそ、組織の枠を超えた自分の基盤となる仕事を自ら作り出す勇気が持てたのだと思います。

現在は公務員として働きながら、この活動を自分のアイデンティティとして大切に育てています。利益のためではなく、自分の心を支え、この地域に深く根を張るための活動です。

ブックランドさんりくの出店の様子

――松本さんが主催する「本のおしゃべり会」は、とてもリラックスした雰囲気だと評判ですね。

私自身、都会の読書会に参加した際に「本の魅力を正しく伝えなきゃ」「深く分析しなきゃ」というハードルの高さを感じ、自分には合わないと思う経験がありました。この経験を踏まえて、自分が開く「本のおしゃべり会」では参加のハードルを下げたいと思っています。

私にとって本は、常にストイックに読み込むものではなく、心に足りない栄養を補うサプリメントのような存在です。内容を読み解くだけでなく、装丁を眺めたり、並べたり、空間を楽しんだりする遊びの対象であっていいと思っています。

――具体的に、場作りで大切にしていることはありますか?

本を読んでいない人や口下手な人も歓迎することです。知識量や読書量を競う場にはしたくないので、無理な司会進行もしません。極端に言うと、皆さんの話を聞くだけの参加もOKにしています。

本を介して話をすると、不思議と初対面の人とも深い部分で繋がれるんです。その人が選んだ一冊には、その人の内面や世界観、いわばその人の宇宙が詰まっています。それを少しだけ覗かせてもらうような感覚が、この活動の醍醐味ですね。

地域の記憶を繋ぎ、多世代が混ざり合うブックランドさんりくの構想

ブックランドさんりく「ほひふラジオ」の様子

――ブックランドさんりくという名前には、どのような想いが込められているのでしょうか。

震災前、この地域に市民から愛されていたブックランドいとうという本屋さんがありました。その名前を継承することで、地域の記憶に対する敬意を形にしたかったんです。

また、陸前高田という枠に縛られず、大船渡や釜石、さらには県外の人からも三陸のあそこに行けば面白い本に出会えると思ってもらえるような、広い繋がりの場にしたいという願いも込めています。

――個人でこれだけの活動を形にするのは大変だったのでは?

それが、私が「やりたい」と一言声を上げたら、街づくり会社の方や地元の店主さんたちが「面白そうじゃん!」とすぐに乗ってくれました。この地域の横の繋がりの強さと、面白いことに対する柔軟さには本当に助けられました。一人で頑張るのではなく、面白いと思う人たちが自然と集まって形になったのがブックランドさんりくです。

今後は、子供たちが店長になって本を売るブースも増やしたいです。商売の仕組みを学びながら、本との関わりをもっと気軽に、楽しんでほしい。日常が少ししんどい時に「あ、本でも読んでみるか」と自然に思い出してもらえるような、皆さんの深層心理にそっと寄り添う活動であり続けたいです。

自身の適正を乗り越え、一歩踏み出したいあなたへ伝えたいこと

ブックランドさんりくの集合写真

――活動を続ける中で、公務員としての自分と、個人としての自分の間で葛藤もあったとお聞きしました。

はい、ありました。組織の一員として無名でいたいという思いがある一方で、活動を知ってもらうためには実名を出して宣伝しなければならない。その怖さに耐えきれず、一時はSNSをすべて消して活動を辞めようとまで思い詰めました。

そんな時、岡倉天心の『茶の本』に出会ったんです。「世界は絶望的な状況にあるけれど、まずは一服、お茶でも啜ろう、小さな空間にある世界を楽しもうよ」という趣旨の一節に、救われる思いがしました。難しい理屈ではなく、この心地よい時間を共有すること自体に価値があるんだ、と。

今回のインタビューもそうですが、周りの方が面白いねと言ってくれることで、ようやくやっぱり楽しいから続けようという原点に立ち返ることができました。

――最後に、地域で何かを始めたいけれど一歩踏み出せないでいる読者へ、メッセージをお願いします。

完璧な計画なんて、最初からなくていいんです。まずは「やってみたい」と周囲に漏らしてみてください。扉を叩いてみれば、案外すんなり開くかもしれません。

大切なのは、活動の内容よりも仲間作りが先だということ。扉が開くかどうか試してみて、もしダメだったらその時に考えればいい。それくらいの軽やかさで、まずは一歩、踏み出してみてください。

〈取材・文=ひろゆき(@himon_da)/編集=八巻美穂(@bh1ly

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