きっかけは「漁師になりたい」の一言。50代夫婦が未経験から挑戦した養殖業
岩手県大船渡市の海で、ホタテやワカメを育てる養殖業に取り組む岡田真由美さん。夫の「漁師になりたい」という一言から、大船渡市への移住を決めました。
27年間続けた会社員生活に区切りをつけた夫と一緒に移住した岡田さんでしたが、当初は不安を抱えていたとのこと。それでも、日々の中で、岡田さんは少しずつこの土地ならではの魅力を感じるようになりました。
大船渡市の海と人に支えられながら見えてきた、新しい生き方とは?

岡田真由美
岩手県大船渡市三陸町越喜来(おきらい)地区在住。
転勤族の夫の脱サラ・漁師への転身を機に大船渡へ移住。現在は夫婦二人三脚で、ホタテ・カキ・ワカメなどの養殖業を営む。自身も漁業権を取得し経営に参画。生産活動の傍ら、修学旅行生の受け入れや漁業体験を通じて、子どもたちに「海の仕事」の面白さを伝えている。元・地域おこし協力隊。
「きつい・汚い・稼げない」とは違った養殖業の現実

岡田さん本人
ーー大船渡市へ移住して漁業を始めたきっかけを教えてください。
27年間サラリーマンだった夫が、「漁師をやりたい」と思うようになったことがきっかけです。仕事を通じて農家の方と関わる機会があり、話を重ねるうちに、自然を相手に何かを育てる生き方に憧れを抱くようになったそうで。
もともと魚釣りが好きだったこともあり、自然と漁業の選択肢に行き着きました。そのなかでも、獲るだけでなく「つくって育てる」養殖業に挑戦したいと考えるようになったんです。
ただ、養殖は制度面のハードルが高く、やりたいという想いだけでは始められませんでした。調べるなかで、養殖への新規参入を比較的受け入れている地域として知ったのが、大船渡市でした。
市役所にも相談しながら準備を進めるうちに、「ここなら挑戦できるかもしれない」と感じ、夫婦で大船渡市への移住を決めました。
ーー現在は、どんな海産物を育てているのでしょうか?
ホタテ・カキ・ワカメを育てています。
ワカメは比較的サイクルが短く、秋に仕込みを行い、春に刈り取ります。浜では、ワカメの刈り取りが始まると「春が来た」と感じるほど、季節を知らせる存在ですね。
一方、ホタテやカキは、出荷できるまでに2年半から3年ほどかかります。成長の段階に合わせて手入れを重ねながら、長い時間をかけて育てていきます。
養殖業は、その年に仕込んだものがすぐ収入になる仕事ではありません。自然の変化と向き合いながら、数年先を見据えて育てていく仕事だと感じます。
ーー漁業を始めてみて、想像していたことと実際とのギャップはありますか?
正直、想像とのギャップは大きかったです。漁業はきつい・汚い・稼げないと言われることも多く、移住する前は本当に生活していけるのか不安がありました。実際、自然環境の影響で水温が上がり、育てていたホタテが大量死するなど、自分たちではどうにもできない出来事にも直面しました。
一方で、経験してみて感じたのは、漁業は工夫や考え方が結果に直結する仕事だということです。失敗をきっかけに県内の生産者に話を聞き、育て方や管理の方法をひとつずつ見直してきました。すぐに成果が出るわけではありませんでしたが、試行錯誤を重ね、今年は少しずつ手応えを感じています。
どうしたら良い方向に向かうか考えながら取り組むのも、仕事の醍醐味です。
リアルな現場を大事にしたい。SNSでは伝わらない漁業の価値

小学生の漁業体験
ーー最近は小学生の漁業体験なども受け入れているそうですね。
はい。きっかけは東京の小学生のサッカーチームの団体からの問い合わせでした。大船渡で試合の予定があり、その空き時間に「地域の産業に触れさせたい」と、私たちのホームページを見て声をかけてくださったんです。
限られた時間の中で何ができるかを考え、岩手県南部で盛んな「耳吊りホタテ」の作業を体験してもらうことにしました。ちょうど作業のシーズンが始まる時期だったこともあり、実際の仕事をそのまま見せられると考えたからです。
最初は子どもたちに養殖の話をしても、しっくりときていない様子でしたが、実際に生きたホタテを目の前にすると目を輝かせていました。純粋に楽しみながら学ぶ姿を見て、提供する側の私も思わず一緒に楽しんでしまいました。
ーーそれは素晴らしいですね!漁業体験を通じて伝えたいことはありますか?
今はSNSやテレビを通じて、現場に行かなくても漁業を知る機会が増えました。ただ、そうした情報はどうしても距離があり、本当に伝えたい価値観までは届きにくいと感じています。
漁業は、海という地域の資源を活用した産業です。だからこそ、その地域を訪れないとわからないことがあると思います。だから、私はリアルな体験を大事にしたいですね。
年齢は関係ない。「今だ」と思える瞬間を逃さないために

岡田さん本人
ーー今後の目標を教えてください。
私たちを受け入れてくれた漁協や生産者のみなさん、地域のみなさんに、できることから少しずつ恩返ししていきたいと思っています。漁業体験の受け入れやイベントを通して、この地域や漁業を知ってもらうことが、結果的に漁村の支えにつながればうれしいですね。
現場には、70代、80代になっても漁を続けている先輩たちがいて、どれだけ経験を積んでも「俺はまだまだだ」と言うんです。海は毎日表情が違い、同じように仕込んでも年によって結果が変わる。その中で向き合い続けているからこそ、簡単に「分かった」とは言えないのだと、最近ようやく腑に落ちました。
私たちもまだ学ぶ途中です。先輩たちに認めてもらえるよう、目の前の仕事に向き合っていきたいと思っています。
ーー最後に、年齢などを理由に新しい挑戦を迷っている方へメッセージをお願いします。
「自分の年齢は若くないので、今からやったのでは遅いのでは」とよく聞きますが、年齢そのものは関係ないと思っています。結局は、本人のやる気や情熱次第です。
私たち自身も、最初から明確な計画があったわけではありません。大船渡に来てから、後になって「あの選択が今につながっていた」と気づくことが何度もありました。
もともとは運命や縁を強く信じるタイプではありませんが、動き続けていると「今だ」と思えるタイミングは訪れるものだと感じています。その瞬間を逃さず、一歩踏み出すことが大切なのだと思います。
☆ ☆ ☆
今回、養殖業や漁業体験でお忙しい中、岡田さんにお話を伺いました。場所は、遊べて泊まれる廃校三陸アクティブの多目的利用スペースを利用して実施。
岡田さんは元・地域おこし協力隊であり、インタビュー後には、同じく地域おこし協力隊として活動してきた方と近況を報告し合う姿も見られました。漁師を目指す仲間同士として、会話が弾んでいたのが印象的でした。
これから漁師として歩みを続けていく岡田さんを応援していきたいです。さらに、大船渡で活動する人物へ取材にまい進していきたいと思います。
〈取材・文=ひろゆき(@himon_da)/編集=石田千尋(@hi_rommn)〉