生まれ育った赤崎だから、安心して挑戦できる。震災を乗り越え叶えたお菓子作りの夢

今回お話を聞いたのは、量り売りのクッキー屋さん『オアゾースイーツ』を一人で切り盛りする店主・金野さん。季節に合わせて入れ替える40種類のクッキーを、岩手県大船渡市・赤崎で焼き続けています。

原点は、小学生のころに目覚めた「つくる楽しさ」。震災を経て独立した今も、“安心できる地元で挑戦する”姿勢を貫いています。

「クッキーを作ると気持ちが落ち着く」という彼女の等身大の言葉を、お楽しみください。

金野智子(きんのさとこ)
岩手県大船渡市赤崎町出身。高校まで地元で過ごした後、東京の辻調グループ校を卒業。県内数店の菓子店でパティシエとして経験を積む。東日本大震災で勤務先のお店も自宅も津波で失い、事務職に就くも、再びものづくりがしたいとの思いから独立を決意。現在は、生まれ育った赤崎町で自らのお店を経営している。

子どものころから好きだったお菓子作り

ーーお菓子作りに興味を持ち始めたのは、いつごろですか?

小学校低学年ですね。明確に「お菓子屋さんになりたい」と思うようになったのは、小学4年生。一人で留守番中に作った簡単なケーキを、家族がとても喜んでくれたのがきっかけで、より作りたいと思うようになりました。

ーー ケーキ作りはご家族から教わったのですか?

いえ、テレビでパティシェがクリスマスケーキを仕上げていくのを見て、始めました。

スポンジにクリームを塗る“ナッペ”の作業がすごくきれいでキラキラしていて……。「あんなふうに作れるようになりたい」と思いました。スポンジの周りをコーティングすると、とても綺麗なので。

ーー 食べるより「作る」に惹かれたんですね。

そうですね。お菓子に限らず、作ることが好きでした。何かを形にするのが楽しくて。「食べ物」も、私にとってはものづくりの一環です。

店舗の棚や看板なども自分で作りました。「得意」というより、「できそうだから挑戦したい」の気持ちが強いんですよね。

震災を経て赤崎の仮設商店街から再出発

ーー お店を持とうと考えた経緯を教えてください。

小学生のころから「ケーキ屋さんになる」と決めていたので、製菓の専門学校に進学しました。卒業後は、東京の会社に就職して盛岡の店舗に配属されたり、大船渡市のお店「ロレーヌ」で10年働いていたりしていました。ところが、2011年に東日本大震災の被害にあってしまって。再建後もそこで働くことは叶わず、一度はお菓子作りから離れ、事務の仕事をしていました。

しばらくパソコンに向かう日々が続いていたのですが、ある日生まれ育った赤崎町で仮設商店街を作る話があり、「お店を出してみない?」と声をかけられたんです。

仮設商店街には、他にも赤崎の老舗や既存のお店を中心に出店されていて。 「3年で解体予定」と告知されていたので期間限定ではあるものの、それ以上に自分の店を持つ夢が叶うことへのワクワク感が勝っていました。

ーー 夢を実現する上で、一番大変だったことは何ですか?

材料の仕入れ方や、商品の選定など、何もかもが手探りでした。とくに、原価計算や価格設定、経理などが大変で。見切り発車で始めたので、わからないことだらけでした。
当時はひたすらインターネットで検索して調べたり、親族に相談したりしていましたね。

“選ぶ楽しさ”を大切に。遠方からのお客さんにも愛されるオアゾースイーツ

ーー お店の特徴や大切にしているこだわりを教えてください。

特徴は、クッキーの「量り売り」です。焼き菓子でも、ケーキのようにさまざまな種類を見て、選ぶ楽しみを味わってほしい思いがあったんです。ワクワクしながら買ってもらってほしくて。常時40種類ほどを用意し、季節によって商品を入れ替えています。

ーー 人気商品や、特に思い入れのある商品などあれば教えてください。

一番人気はチョコチップクッキーで、売り上げはダントツです。

思い入れがあるのは、黒糖味噌クッキーです。大船渡市の郷土料理「かまもち」をイメージして、私がゼロから考えて作り上げました。

かまもちとは、餃子みたいなかたちで、黒糖と味噌を混ぜた餡が入ってるお餅みたいなものです。和のテイストで、甘塩っぱいクッキーです。

ーー 遠方からのお客さんも多いと聞きました。

ありがたいことに、岩手県の南部から車で1時間半かけて来てくださるお客さんもいます。数か月に一度、全種類を100グラムずつ必ず買ってくださるんです。遠方なので、買いだめするって。とてもありがたいですね。

ーー 金野さんは、赤崎復興市に毎回出店されているとか。

実は、自分から「出店したいです」とお願いして参加しました。私自身、赤崎町で育ち、お店も赤崎町にありましたので。お客さんも顔見知りが多いですしね。

復興市では、地域の方々や神戸大学の学生さんたちの支援に支えられています。震災から10年以上たち、建物などの街の復興は進みましたが、心の復興のためにも必要な場所だと思います。

生まれ育った土地だからこそ、安心して挑戦できる

ーー 大船渡市でお店を続ける魅力を教えてください。

私にとって一番の魅力は、“安心してお菓子作りに向き合える環境があること”です。生まれ育った土地なので落ち着いて仕事ができますし、クッキーを焼いていると無心になれて心が落ち着きます。

大船渡には和菓子文化が根強く残っているので、最初は「クッキーなのに高い」と感じられることもありました。でも今では、一枚一枚丁寧に焼いたものを喜んでくれるお客さんも多いです。そんな声に励まされて、地元で続けてこられました。

都会のように派手さはなくても、ここだからこそ安心して、自分らしくお菓子作りを続けられるのが、大船渡でお店を続ける魅力だと思います。

ーー 大船渡市で暮らしたり、お店を開きたいと考える人に伝えたいことはありますか?

暮らす分には、本当にゆったりと過ごせる町だと思います。自然もあって、安心して生活できる環境があります。

ただ、お店を開こうとするなら、、SNSでの「発信力」「お店自体の新しさ」が必要だと思います。

地元の人たちも、やはり都会的なものや新しいものに惹かれるところがありますから(笑)。だから大船渡でお店を開くなら、のんびりした暮らしを楽しみながらも、発信力を持って挑戦できる人に向いていると思います。

ーー では最後に、今後挑戦してみたいことはありますか?

個人的には、資格を取りたいです。コーヒーに関する資格や、防災士に興味があります。あと動物が大好きなので、動物のために何かしたいと常々思っています。

☆ ☆ ☆

生まれ育った土地で、安心して挑戦を続ける金野さん。
取材を通して、ひとつの幸せの形を見せてもらったような気がします。

自分にとって本当に大切なものが何かを知り、その場所で暮らすことは、これ以上ないほど尊い生き方なのかもしれません。

陰ながら金野さんの挑戦を応援していきたいと思います。
〈取材・文=ひろゆき(@himon_da)/編集=石田ちひろ(@hi_rommn)〉

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