『自然と人にほっとする』大船渡市長が語るこれからの暮らし
山、川、海、空。自然豊かな気仙地区にある岩手県大船渡市には、日々ちがう表情を見せてくれる自然と、あたたかな人のつながりがあります。
そんなまちで生まれ育ち、市民として歩んできたのが、岩手県大船渡市の市長・渕上清さん。今回は渕上清さんに、大船渡市での暮らしについて聞きました。
子どものころの思い出から現在の大船渡市の日常まで。
市内の人にとっても、市外の人にとっても大船渡市を再発見できるといいですね。

渕上 清 大船渡市長
大船渡市生まれ、大船渡市育ち。市内の高校を卒業後、4年間の社会経験を経て家業(建築板金業)を継ぎ、2005年に代表取締役に就任する。その後2010年に市議会議員になり、2022年から市長となる。趣味は、スポーツ(する・みる)・旅行・まわりを楽しくすること。
子ども時代に刻まれた大船渡市の思い出

――子どものころ、大船渡市での思い出はありますか?
『天神山公園』界隈でよく遊んでいたのを覚えています。自宅が天神山の麓にあったので。
また、下船渡から蛸ノ浦まで船で渡ったことも忘れられません。50〜60年前は今のように道路が整備されておらず、船で渡ったんですよ。
――どのような遊びをされていましたか?
かくれんぼ(缶けり)をしたり、木の枝等で基地を作ったりしていました。冬には裏の川が凍ることもあり、積雪も多く、そり滑りやスケートも楽しんでいました。
――七夕祭りにも思い出があるそうですね。
私は盛町出身なので、『盛町灯ろう七夕まつり』には特に思い入れがあります。山車を引いて町中を練り歩き、お囃子の音とろうそくの灯りが幻想的で……。地域のみんなで山車を動かすのが、子どもながらに楽しくて仕方なかったです。
――地域とのつながりを感じる行事だったのですね。
そうですね。七夕の制作期間を通じて地域とのつながりを感じられました。お囃子の練習を通じて、地域の大人たちと関わる機会がありましたし、中学生になると山車の中で、ろうそくを取り替える役割や、山車の上から大きな七夕飾りを避けたり、すれちがい時には、自分たちの山車を守る係を任されたりしました。
癒しは音楽と自然のなかに。休日の過ごし方

――休日はどのように過ごすことが多いのでしょうか?
最近は私が中学生時代に買ってもらったステレオオーディオを直して、昔のLPレコードを聴いています。
ひとりの時間が取れることはあまり多くありませんが、30分や1時間でもレコードを聴いて過ごせると、ほっとできますね。
――おひとりの時間はなかなか取りづらいのでしょうか?
そうですね。でも1人になる時間が取れないことは、逆に言えば私にとって幸せなことだと思っています。普段から多くの方に会っていますし、それ自体が好きだからです。
時期によっては、薪割りをすることもあります。周りからは「大変だね」と言われますが、気が向いた時、自分のペースで好きなだけできるので、リフレッシュにつながります。
――リフレッシュしたいとき、大船渡市で足を運ぶお気に入りの場所はありますか?
季節によりますが、暖かくなると、碁石海岸をはじめ、海が見える場所に足が向きますね。やっぱり海を見ると安心するんです。
これまで大船渡市ではさまざまな出来事がありましたが、やっぱりこの海とリアス海岸は、私にとって安らぎを感じ、元気を取り戻せる場所です。
碁石海岸は地元の人にとっては見なれた風景かもしれませんが、『みちのく潮風トレイル』や『ジオパーク』の視点を加えて改めて見ると本当に美しい場所です。自然の成り立ちを学ぶことで、より深くまちの魅力に気付かされます。
支え合いながら過ごす大船渡市での暮らし

――大船渡市で暮らしていて、どのようなところに魅力を感じますか?
お互いを思いやる土壌があると思っています。昔から、「向こう三軒両隣」と言われていましたが、今も近所づきあいのなかに、温かさや助け合いの文化が息づいています。こうした関係性は、ほかの地域では薄れていているかもしれません。
「遠くの身内より近くの他人」と言いますが、実際にご近所との関係のほうが長く、日常的に支え合う場面が多いと感じます。意識しているわけではなくても、自然とお互いを気遣って暮らしているんですね。
そういった地域性もあり、大船渡市は暮らしやすいと思いますよ。
――改めて感じる大船渡市に住む人たちの人柄は、どのように表現できますか?
先ほども少しお話ししましたが、基本的には心根が優しい方が多いと感じます。
たしかに、海沿いの地域では言葉が強く感じられることもあるかもしれません。でも付き合っていくなかで、その奥にある温かさや思いやりが見えてくるんです。初対面では気付かないけど、いろいろと付き合って、人となりが見えてくると、口調とは裏腹に温かさを感じると思います。
災害も含めて大変な時期を共に乗り越えてきた地域だからこそ、そうした人柄が育まれたのかもしれませんね。いろいろなことがあって、そういった歴史があるからかも知れませんね。
読者へのメッセージ

――日々の暮らしのなかで、大船渡市が好きだと感じる瞬間はありますか?
山・川・海・空といった自然の存在ですね。四季折々の表情を見せてくれて、それに気づけたときがうれしいです。本当に毎日が違う風景なんですよ。
たとえば山なら、秋には紅葉、春には青々とした新緑、今出山ではツツジが真っ赤に染まる時期もあります。
春には、まちのあちこちで桜並木が見られます。立派な桜の木も多くて、歩いているだけで気持ちが和らぎます。空を見上げて雲の形を眺めるだけでも「いいまちだな」と、実感できる瞬間があるんです。
――市長にとって「大船渡市らしさ」とは何でしょうか?
岩手県の沿岸部は自然環境が似ている部分も多いですが、大船渡市は特に自然に恵まれていると感じますね。それが地域に受け継がれてきたことも、大船渡市らしさのひとつですね。
自然に囲まれていながらも、決してまちが発展しないわけではありません。漁業や養殖、セメントなどの工業、コンテナ貨物による海上輸送など、産業と自然が共存している港町です。このような地域はなかなかないと思います。
また、大船渡市には地元出身者が立ち上げた企業も多く、業界のトップクラスで活躍している会社も複数あります。全国に誇れる先進的な企業が本社を構えていることも、大船渡市の大きな強みです。
――最後に、この記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。
私が市長に就任してからも、少子化や人口減少の流れは止まっていません。これは全国的な傾向ではありますが、大船渡市としても真剣に向き合う必要があります。
その中でも「フューチャーデザイン」という視点が大事と考えます。将来このまちに暮らす子どもたちを“未来の利害関係者”と捉え、10年、20年、50年先を見据えて、どんな大船渡市であってほしいかを今から描き、行動を起こすことが必要だと思っています。
大船渡市では、ビジネスや地域づくりをはじめ、さまざまな挑戦ができます。特に若い世代の挑戦には、私たち行政としてもしっかりと応援していきたいですね。
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お忙しい中、取材に対応していただいた渕上市長。終始笑顔でインタビューを受けていただきました。
お話の中では大船渡市の自然の豊かさや人の温かさなどが印象的でした。
喧騒も少なく、ゆったり自然を感じながら暮らす様子が想像できました。
この記事をきっかけに、自分自身の暮らしを見直すきっかけになりますね。